構造化学習ユニットについて

構造化学習ユニット(Structured) Ver. 4.3 2021年03月15日 阪井和男(Public Domain)

[CCO]構造化学習ユニットは権利者が能動的にパブリックドメインに置くものです。
構造化学習ユニットのバージョン情報
Ver. 4.3 2021年03月15日 動作環境の改善・バグ修正
Ver. 4.2 2021年02月14日 バグ修正
Ver. 4.1 2021年02月12日 JSONによる実装
Ver. 4.0 2021年02月02日 COBOL構成「部(-章-節)-段落」に変更
Ver. 3.0 2021年01月08日 XMLによる実装版
Ver. 2.2 2020年12月13日 構成の再構築
Ver. 2.1 2020年12月09日 学習コンセプトの類推の追記
Ver. 2.0 2020年11月14日 注と参考の充実
Ver. 1.0 2020年11月02日 文芸的プログラミング(注1)版

構造化学習ユニットの定義
「構造化学習ユニット」とは、シラバスを構成する個々の授業で実施されるひと塊の単一テーマに絞ったもの(40分から90分程度)で、指導案としての授業の構成が構造化されており学習効果のアセスメント方法等を明記したもの(阪井和男, 2020年11月02日, 2021年2月3日改)。

注記(Note Section)

構造化学習ユニットのコンセプト

「学習ユニット」の「コンセプト」を一言でいうと・・・
世の中にすでに美味しいもの(ある授業の一部を切り出した面白そうな断片)があるなら、それを再構築すればいい(sioの料理イズム, 2020)。
教員の授業づくりと、台所を預かる人にとっての日々の食事の支度は、どこか状況が似ていると思いませんか。
ただでさえ多忙なスケジュールにおかれているのに、合理化を許さないという伝統的ドグマが圧迫してくるからです。
気の重い日常ルーティン(授業=料理準備)を気軽に楽しくでき、なんとアクティブラーニングの「衣」で覆われていて教育効果も高まってしまう。そんな授業デザインをお手伝いしたいのです。
日々の「料理」に「コンビニ惣菜」も取り入れて「へとへと解放宣言!」(レタスクラブ,2021)する。そんな「コンビニ惣菜」として「学習ユニット」をご活用ください(齊尾恭子・阪井和男, 2020年12月9日)。

同僚との対話から創発される相互学習

学生の仲間・同僚との対話に意味をもたせる方法とは?
集合教育から相互学習へ
・「集合教育」を料理にたとえると・・・
 パーティ−ディナーの席で振る舞われる三つ星シェフが調理したフルコース料理を食べること
・「相互学習」を料理にたとえると・・・
 下ごしらえした素材を与えて、そのままでも食べられるが、ちょっと手を加えたほうがおいしくなると気づくこと
・相互学習のコンセプト:「隣の学生が最大の学習資源」(原田康也・早稲田大学教授)・学習が創発する条件:リフレクション(振り返り、省察)があること!
(阪井,2021)

文芸的プログラミング

学習ユニットの記法のもとの発想は、数学者・計算機科学者でTeXの開発者であるドナルド・エルビン・クヌース(Donald Ervin Knuth)(スタンフォード大学名誉教授)が提唱した文芸的プログラミング(literate programming)(Knuth,1992)をまねている。文芸的プログラミングとは、ドキュメントとソースを併記したメタソースを記述し、そこからドキュメントとソースコードをそれぞれ生成させることで、情報の一体性を高める方法である。ここでは、学習ユニット全体の記述が「メタソース」、そのなかに「ドキュメント」としての教員向け授業構成、そして「ソースコード」としての指導案が併記される。表計算ソフト等で該当行を抽出することによって学習ユニットの記述から教員向け授業構成と指導案の2つを分離できる。

教員評価を同僚評価で代替することの妥当性

教員評価を行わないことの妥当性について:高橋(2011)によると、教員評価(上司評価)と同僚評価(相互評価)は、人事評価研究で高い相関を示す(r=.62,N=2,643)。これは、自己評価と上司評価(r=.35, N=3,957)、自己評価と同僚評価(r=.36, N=986)に比べて高い(Harris and Schaubroeck,1988)ことを意味する。したがって、受講学生数のスケーラビリティ確保のため、教員評価を行わないことの妥当性はあるといえよう(高橋, 2011)(Harris and Schaubroeck,1988)。

MOOCsにおける同僚評価の方法

MOOCs(Massive Open Online Courses)において開発されたスケーラブルな同僚評価(相互評価)の方法として、ルーブリックを用いる方法がある。ルーブリックは、パフォーマンス評価を絶対評価する方法であり、学習到達度を示す評価基準を観点と尺度からなる表として示したものである。MOOCsで採用され広がったスケーラブルなものに、評価基準のルーブリックをあらかじめ与えた上で、ルーブリックにもどづいて作成したレポートを提出させるものがある。加えて、レポート提出後に同僚の5本のレポートをルーブリックにもとづいて評価した結果を提出してはじめてレポート提出が完了するという方法をとる。こうして得られた同僚評価の集計は、中央値を採用することによって、極端な評価を排除する効果をもつ。日本では早稲田大学が提供したJMOOCではじめて採用され妥当性が検証された。

ルーブリックに創造性の基準を導入する方法

一般にルーブリックは学習成果を複数の基準に分解し、それぞれの基準ごとに到達レベルを数段階で記述した表を用いる。ここで、分解された基準を作る方法としては、教員があらかじめ設定する一般的な方法に加え、学生と教員とで共創的に作り上げる方法(市嶋,2006)、さらに、ひとつの基準を創造性や独創性を評価するものとして評価者がそれぞれの視点で評価できる余地を与える方法が示唆されている(阪井, 2016)。

ルーブリックへの創造性評価の導入

参考文献(市嶋,2006)を参照のこと。

ルーブリックへの創造性評価の導入

教員の意図を超えた学習者の創造性を評価するために、ルーブリックの基準の一つを創造性や独創性を評価するものとする方法。この場合、当該基準の集計には中央値ではなく最大値を採用することが望ましいと考えられる(阪井,2016)。

アクティブラーニングの3要素(阪井, 2020)

[a]主体的な学び:マインドセットを整える
[b]対話的な学び:自己、または同僚と振返る
 □個人ワーク:自己との対話
 □同僚ワーク:同僚との対話
[c]深い学び:自己、または同僚と振返る
 □論理モード:演繹 vs. 帰納(論理数学的知能 vs. 博物的・空間的知能)
 □対話モード:対人 vs. 内省(対人的知能 vs. 内省的知能)

構造化学習ユニットにおける手続き部の構成

学習ユニットにおける「授業の構成」は、ガニェの9教授事象を採用した。これは、「インストラクショナルデザイン理論の父」と言われる学習心理学者のロバート・M・ガニェ(Robert M.Gagne)(フロリダ州立大学名誉教授)が提唱した学習支援モデル(Gagne et al.,2004))である。認知心理学で提唱されている情報処理モデルをもとに、学びの過程を支援する視点から学習活動に必要とされる9つの働きに分類した理論で、人の学びのプロセスにさかのぼって教材の構成を考えていくためのフレームを与えている。

参考文献(Reference Section)

sioの料理イズム(2020)

#sio公式(2020/07/31 16:08), sio株式会社公式note, 2020年7月31日. https://note.com/sio_co/n/ndd1a80bfdf47(2020年12月9日アクセス)

レタスクラブ(2021)

「へとへと解放宣言!」, 『レタスクラブ』(サブタイトル), KADOKAWA, 2021. https://www.lettuceclub.net/(2020年12月9日アクセス)

Knuth(1992)

Knuth, Donald E., Literate Programming, Stanford(California), Center for the Study of Language and Information Publication, CSLI Lecture Notes, No. 27, Mar. 30, 1992. ISBN 0-937073-80-6 和訳:ドナルド・E. クヌース, 『文芸的プログラミング』, 有沢誠訳, アスキー出版局, 1994年3月1日.

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(2021)

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』, 2021年1月19日. https://ja.wikipedia.org/wiki/クリエイティブ・コモンズ・ライセンス (2020年11月13日アクセス)

高橋潔(2011)

「人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点」, 日本労働研究雑誌, No. 617, pp. 22-32, Dec. 2011. https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2011/12/pdf/022-032.pdf (2020年11月2日アクセス)

Harris and Schaubroeck(1988)

Harris, M. M., and Schaubroeck, J., A meta-analysis of selfsupervisor, self-peer, and peer-supervisor ratings, Personnel Psychology, 41, 43-62. https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.1988.tb00631.x (2020年11月2日アクセス)

市嶋典子(2006)

「プロセス的評価,主体的評価はどのような授業設計で可能か:学習者と教師が共に評価について考える意味をめぐって」, 『WEB版リテラシーズ』, Vol. 6, No. 2, pp. 11-20, くろしお出版, 2006年12月. http://literacies.9640.jp/vol06.html (2020年11月3日アクセス) http://literacies.9640.jp/dat/litera6-2-2.pdf (2020年11月3日アクセス)

阪井和男(2016)

「ルーブリックへの創造性評価の導入を考える」, JMOOCメルマガ, 2016年8月号, 日本オープンオンライン教育推進協議会, 2016年8月1日.

阪井和男(2020)

オンライン授業における創造的なアクティブラーニングの授業デザインと教育の評価」, 『情報コミュニケーション学会研究報告』, 情報コミュニケーション学会, Vol. 17, No. 2(2020-2), pp. 62-112, 2020年11月21日.

Gagne et al.(2004)

Robert M. Gagne, Walter W. Wager, Katharine Golas, and John M. Keller, Principles of Instructional Design 5th Edition, Cengage Learning; 5th edition, June 15, 2004. 和訳:R.M.ガニェ・W.W.ウェイジャー・K.C.ゴラス,J.M.ケラー, 『インストラクショナルデザインの原理』, 鈴木克明・岩崎信監訳, 北大路書房, 2007年8月27日.

千葉早絵(2020)

「ABC curriculum designを用いたコース再設計:対面からハイブリッドへ」, アーカイブ, No. 11, 【第21回】4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム:遠隔・対面ハイブリッド講義に向けての取り組み, 国立情報学研究所, 2020年11月20日. https://www.nii.ac.jp/event/other/decs/ (2020年12月9日アクセス)

阪井和男(2021)

「対面型とオンライン同時双方向型を同期させるハイフレックス授業の実践と教育評価」, 2020年度専教連フォーラム「コロナ禍と大学」(Zoomミーティング), 明治大学専任教授連合会, 2021年1月26日.

謝辞

構造化学習ユニットの実現にあたって、戸田博人(熊本大学大学院)、山本幸太郎(想隆社)、齊尾恭子(明治大学サービス創新研究所)、渡邉純一(ファーストスタープロジェクツ)、野口貴裕(ファーストスタープロジェクツ)、岡田祥成(ネットラーニング)の各氏、ならびにJMOOCオンライン・リベラルアーツWGの関係者にご協力いただいたことをここに記して感謝いたします。